ポルトガル語は世界で約2億6千万人が話す言語ですが、その大半はブラジルに住む人々です。ポルトガル語はブラジルとポルトガルの他にも、アフリカやアジアの一部の国で話されていますが、その中でもブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語は最も有名で、かつ最も異なるものです。
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語は、発音や文法、語彙や表現など、様々な面で違いがあります。これらの違いは、歴史的な背景や文化的な影響、地理的な距離などによって生まれました。しかし、両者は同じ言語の変種であり、お互いに意思疎通は可能です。
この記事では、ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語の違いを、発音、語彙、文法、会話表現の4つの観点から紹介します。
ポルトガル語を学ぶ人や興味のある人にとって、参考になる情報を提供できればと思います。
発音の違い
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語の最も目立つ違いは、発音です。
ブラジルのポルトガル語は口を大きく開けて話されるのに対して、ポルトガルのポルトガル語は口をあまり開けずに話されます。
ポルトガルのポルトガル語を初めて聞く人は、「なんだかボソボソ話してる」とか「ロシア語に似ている」という感想を持つことがあります。
発音の違いは、以下のような点に現れます。
母音の発音
ブラジルのポルトガル語では、母音は基本的に5つの音(a, e, i, o, u)で発音されますが、ポルトガルのポルトガル語では、狭母音や曖昧母音といった口をあまり開けずに発音される母音があり、それらは基本母音と明確に区別されます。
また、ポルトガルのポルトガル語では、単語の中の母音の位置によって母音の発音が変わることがあります。
例えば、「ponto」(点)という単語は、ブラジルでは「ポント」と発音されますが、ポルトガルでは「ポントゥ」と発音されます。
「tarde」(午後)という単語は、ブラジルでは「タルヂ」と発音されますが、ポルトガルでは「タルドゥ」と発音されます。
子音の発音
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語では、子音の発音も異なります。
特に、「s」、「r」、「l」、「t」、「d」などの音に違いが見られます。
「s」は、ブラジルでは「ス」や「ズ」と発音されますが、ポルトガルでは「シュ」や「ジュ」と発音されます。
「r」は、ブラジルでは「ハ」や「ラ」と発音されますが、ポルトガルでは「ル」と発音されます。
「l」は、ブラジルでは「ウ」と発音されますが、ポルトガルでは「ル」と発音されます。
「t」や「d」は、ブラジルでは「チ」や「ジ」と発音されますが、ポルトガルでは「テ」や「デ」と発音されます。
鼻音の発音
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語では、鼻音の発音も違います。
ブラジルのポルトガル語では、鼻音の直前の強勢母音を鼻音化する場合がありますが、ポルトガルのポルトガル語では鼻音化しません。
例えば、「fama」(評判)という単語は、ブラジルでは「ファンマ」と発音されますが、ポルトガルでは「ファマ」と発音されます。
「sonho」(夢)という単語は、ブラジルでは「ソンニュ」と発音されますが、ポルトガルでは「ソニュ」と発音されます。
挿入音の発音
ブラジルのポルトガル語では、音節末の「b」、「p」、「g」、「t」、「d」の直後に子音が続く場合に、子音間に母音「i」を挟むことがありますが、ポルトガルのポルトガル語ではそのような母音を挟むことはありません。
例えば、「advogado」(弁護士)という単語は、ブラジルでは「アジヴォガド」と発音されますが、ポルトガルでは「アドヴォガド」と発音されます。
「raptar」(誘拐する)という単語は、ブラジルでは「ハピタル」と発音されますが、ポルトガルでは「ラプタル」と発音されます。
語彙の違い
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語では、語彙も多くの違いがあります。
これは、両国の歴史的な背景や文化的な影響、地理的な距離などによって生まれたものです。
例えば、ブラジルではアフリカやインディオの言葉、ポルトガルではアラビア語やフランス語の影響が見られます。
また、日常生活や食文化、習慣などに関する単語にも違いが見られます。ここでは、ブラジルとポルトガルで異なる単語の例をいくつか紹介します。
ブラジル | ポルトガル | 意味 |
---|---|---|
abacaxi | ananás | パイナップル |
andar térreo | rés-do-chão | 一階 |
banheiro | casa de banho | トイレ |
bonitinho / bonitinha | giro / gira | 可愛い |
cachorro | cão | 犬 |
café da manhã | pequeno-almoço | 朝食 |
cafezinho | bica | エスプレッソコーヒー |
canadense | canadiano / canadiana | カナダ人、カナダ人の |
celular | telemóvel | 携帯電話 |
cem trilhões | cem biliões | 100兆 |
chope | imperial | 生ビール |
delegacia | esquadra | 警察署 |
dez bilhões | dez mil milhões | 100億 |
dez trilhões | dez biliões | 10兆 |
dezenove | dezanove | 19 |
dezesseis | dezasseis | 16 |
fila | bicha | 列 |
geladeira | frigorífico | 冷蔵庫 |
legal | fixe | かっこいい、素敵 |
ônibus | autocarro | バス |
sorvete | gelado | アイスクリーム |
trem | comboio | 電車 |
xícara | chávena | カップ |
文法の違い
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語では、文法もいくつかの違いがあります。
どちらの文法に則って話してもお互いに通じ合えますが、少し知っておくと面白いですよ。
二人称代名詞の使い分け
ポルトガル語には、二人称単数の代名詞として「tu」と「você」の二種類があります。
ポルトガルでは、「tu」は親しい人や同年代の人に、「você」は目上の人や丁寧な場合に使われます。
しかし、ブラジルでは、「tu」はほとんど使われず、「você」が一般的に使われます。
また、「você」に対応する動詞の活用は、ポルトガルでは二人称単数形、「foste」など、ブラジルでは三人称単数形、「foi」などになります。
例えば、「あなたはどこに行ったの?」という質問は、ポルトガルでは「Onde tu foste?」(カジュアル)や「Onde você foi?」(丁寧)、ブラジルでは「Onde você foi?」(カジュアル/丁寧)となります。
「私たち」を表す「a gente」と「nós」
ポルトガル語には、「私たち」を表す代名詞として「a gente」と「nós」の二種類があります。
ポルトガルでは、「a gente」は「人々」という意味で使われ、「nós」が「私たち」という意味で使われます。
しかし、ブラジルでは、「a gente」が「私たち」という意味で使われ、「nós」はほとんど使われません。
また、「a gente」に対応する動詞の活用は、ポルトガルでは三人称複数形、「fomos」など、ブラジルでは三人称単数形、「foi」などになります。
例えば、「私たちはリスボンに行きました」という文は、ポルトガルでは「Nós fomos a Lisboa.」、ブラジルでは「A gente foi a Lisboa.」となります。
代名詞の位置と縮約形
ポルトガル語には、目的語や所有格などを表す代名詞があります。
「私に」「私を」「彼に」「彼を」などです。
ポルトガルでは、これらの代名詞は基本的に動詞の後ろにハイフンをつけて置かれます。
しかし、ブラジルでは、これらの代名詞は常に動詞の前に置かれます。
例えば、「彼は私に本をくれた」という文は、ポルトガルでは「Ele deu-me um livro.」、ブラジルでは「Ele me deu um livro.」となります。
また、ポルトガルでは、これらの代名詞が前置詞と組み合わさると、縮約形になることがあります。
例えば、「para mim」(私に)は「para」(に)と「mim」(私)の組み合わせですが、「para」が「par」に短縮され、「par mim」になります。
しかし、ブラジルでは、これらの縮約形は使われません。
例えば、「彼は私に本を買ってくれた」という文は、ポルトガルでは「Ele comprou-me um livro.」や「Ele comprou um livro par mim.」、ブラジルでは「Ele me comprou um livro.」や「Ele comprou um livro para mim.」となります。
会話表現の違い
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語では、会話表現も異なります。
これは、両国の文化や習慣の違いによって生まれたものです。
例えば、挨拶や礼儀、敬語などに関する表現は、ポルトガルとブラジルではかなり違います。
挨拶の表現
ポルトガルとブラジルでは、挨拶の表現にも違いがあります。
ポルトガルでは、友人や知人に会ったときは「Olá」(こんにちは)や「Tudo bem?」(元気?)と言いますが、ブラジルでは「Oi」(やあ)や「Tudo bom?」(元気?)と言います。
ポルトガルでは「Oi」は電話での挨拶に使われます。
礼儀の表現
ポルトガルとブラジルでは、礼儀の表現にも違いがあります。
ポルトガルでは、「ありがとう」は「Obrigado」(男性)や「Obrigada」(女性)と言いますが、ブラジルでは「Obrigado」(男性)や「Obrigada」(女性)のほかに、「Valeu」(サンキュー)や「Brigadão」(どうもありがとう)と言います。
ポルトガルでは「Valeu」は「いいね」や「了解」という意味で使われます。
また、ポルトガルでは、「すみません」は「Desculpe」(軽い失礼)や「Desculpa」(重い失礼)と言いますが、ブラジルでは「Desculpe」(軽い失礼)や「Desculpa」(重い失礼)のほかに、「Perdão」(許して)や「Me desculpe」(ごめんなさい)と言います。
ポルトガルでは「Perdão」は「聞き返す」や「許す」という意味で使われます。
敬語の表現
ポルトガルとブラジルでは、敬語の表現にも違いがあります。
ポルトガルでは、目上の人や丁寧な場合には、「você」(あなた)の代わりに「o senhor」(男性)や「a senhora」(女性)と言います。
しかし、ブラジルでは、「você」(あなた)が一般的に使われ、「o senhor」(男性)や「a senhora」(女性)は非常に敬意を表す場合に使われます。
例えば、「あなたはどこから来ましたか?」という質問は、ポルトガルでは「De onde é o senhor?」(男性)や「De onde é a senhora?」(女性)、ブラジルでは「De onde você é?」となります。
まとめ
この記事では、ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語の違いを、発音、語彙、文法、会話表現の4つの観点から紹介しました。
ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語は、同じ言語の変種であり、お互いに意思疎通は可能です。しかし、両者は歴史的な背景や文化的な影響、地理的な距離などによって多くの違いを持っています。これらの違いを知ることで、ポルトガル語の豊かさや魅力をより深く感じることができるでしょう。
ポルトガル語を学ぶときは、自分の目的や興味に合わせて、ブラジルのポルトガル語とポルトガルのポルトガル語のどちらを選ぶかを考えることが大切です。どちらも素晴らしい言語ですが、それぞれに特徴や難易度があります。ポルトガル語の学習を始める前に、この記事で紹介した違いを参考にしてみてください。